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東京地方裁判所 昭和55年(ソ)12号 決定 1981年2月25日

抗告人 長井清

右代理人弁護士 金野一秀

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。本件を東京簡易裁判所に差戻す。」というにあり、その理由の要旨は、「原決定添付目録記載の証書(以下「本件証書」という。)の記載内容や藤和那須カントリークラブ(以下「本件クラブ」という。)会則の内容のほか、近時、本件証書と類似の預託証券が取引の対象とされ、これに表示された預託金額を超える価額によって取引がなされ、市場価格をも形成している実情に鑑みると、本件証書は預託金返還請求権のみならず施設利用権をも表彰するものであって、これらの権利は、譲渡人と譲受人との間においては裏書によって移転するものというべく、また、会員が藤和カントリークラブ株式会社又は本件クラブに対し預託金の返還や名義の書換等を請求するには、本件証書の所持を要するものと解されるので、本件証書は、民法施行法五七条所定の指図証券に当るものというべきである。したがって、これに当らないとして本件公示催告の申立を却下した原決定は、同条の解釈、適用を誤ったものというべく、失当といわなければならない。」というにある。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件証書は、藤和カントリークラブ株式会社が抗告人に対して発行したものであって、その表面には、「預り金証書 藤和那須カントリークラブ 金弐百参拾万円也 上記の金額を当クラブ会則の定めにより藤和那須カントリークラブ個人正会員の入会預託金としてお預りいたします。尚、この預託金は本証発行から一〇年間据置(利子はつけません)。退会の場合は据置期間後に返還いたします。但し、会則にもとづいて譲渡はできます。」との記載があるほか、証書番号としてA第〇二一〇号、証書の名宛人として抗告人、発行年月日として昭和五〇年五月九日、発行者として藤和カントリークラブ株式会社代表取締役藤田正明、との記載があり、また、その裏面には、譲渡年月日、譲渡人氏名、譲渡人印、譲受人氏名、会社承認印の各欄が設けられている。

(二)  本件クラブに入会するには、所定の手続により入会を申込み、同クラブの理事会の承認を経たのち、入会預託金を納入することを要する。そして、会員は、藤和カントリークラブ株式会社経営に係る栃木県那須郡那須町大字伊王野所在のゴルフ場及びその附属施設を、所定の維持会費及び諸料金を支払うことにより、本件クラブの会則に従い優先的に利用しうる権利を有し、さらに、入会に際して預託した入会預託金を一〇年の据置期間経過後は退会とともに返還請求することができるのである。また、会員は、その会員資格を譲渡することもできるが、これをもって右会社に対抗するには、右譲渡を受けた者が所定の手続により入会を申込み、理事会の承認を経たのち、名義書換料を納入することを要する。なお、本件クラブの会則では、会員がクラブの諸規則に違反したり、クラブの名誉を毀損したり、秩序、エチケットを乱す行為をしたり、その他処分を適当とする行為をしたとき等は、理事会の決議により除名又は会員たる資格の一時停止をすることができる旨定めているが、この定めや入会及び会員資格の譲渡について前記のとおり本件クラブの理事会の承認を必要としていることからも明らかなとおり、本件クラブ及び藤和カントリークラブ株式会社は、会員が本件クラブの会員としてふさわしい者であるか否かについて大いに関心を持ち、会員資格を規制していることが窺われる。

2  ところで、民法施行法五七条にいう指図証券とは、財産的価値を有する私権を表彰する証券であって、権利の発生・移転・行使の全部又は一部が証券によってなされることを要するもののうち、特定の者又はその指図人を権利者とする旨の指図文句が証券面に記載されているものを指すと解される。

これを本件についてみるに、1に認定した事実、ことに、本件証書中には指図文句の記載がなく、裏面の記載も手形等の形式とはちがい会社承認印欄が設けられていること、本件クラブへの入会や会員資格の譲渡について、本件クラブの理事会の承認が必要とされる等証書自体を離れた種々の手続が要求されていること、本件クラブ及び藤和カントリークラブ株式会社が会員の人格等についても重大な関心を持ち会員資格を規制していること、本件証書中には会員としての権利の行使や会員資格の譲渡につき本件証書の所持を必要とする旨の記載がなされていないのみならず、このことを必要とすることを窺わしめるに足りる資料もないことをも併せ考えると、たとい抗告人主張に係る本件証書と類似の預託証券の取引の実情を考慮したとしても、未だ本件証書が民法施行法五七条所定の指図証券に該当するものということはできないというべく、単なる証拠証券にすぎないものと解するのを相当とする。

3  そうすると、本件証書は、所論のように民法施行法五七条の指図証券であるということはできないのみならず、証書の無効宣言のためになす公示催告手続の対象となりうる証券のいずれにも該当するものではないというべきである。

4  以上の次第であるから、本件証書が右公示催告手続の対象となる証券ではないとして抗告人の本件公示催告の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから民事訴訟法四一四条、三八四条によりこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 渡邊昭 裁判官 増山宏 金井康雄)

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